外貨MMFが元本割れした稀な事例

金利リスク、信用リスクが非常に小さな外貨MMFですが、それでも元本割れしてしまった稀な事例があります。それが2001年のエンロン事件と呼ばれる、アメリカ史上最大の企業破綻によるものです。

エンロン事件とは

エンロン(Enron Corp.)は、アメリカ合衆国テキサス州に存在した、総合エネルギー取引とITビジネスを行う、全米でも有数の大企業でした。
1985年の設立以来、積極的に規模を拡大していったエンロンですが、海外の大規模事業の相次ぐ失敗などにより実際の経営状況は悪化していました。にもかかわらず、CFO(最高財務責任者)の指示で不正な会計処理をして嘘の財務報告をしていたのです。

こうした不正が明るみになったのは、2001年10月にウォールストリート・ジャーナルがエンロンの不正会計疑惑を報じたためです。この日からエンロンの株価は急落していき、同年12月2日にエンロンは会社更正法適用を申請、事実上の倒産をします。

疑惑が浮上するまで、エンロンは革新的で、なおかつ安定した成長を続ける超優良企業としての名声を確立しており、2000年8月の株価は90ドルを超えています。この時点では、アナリストもエンロン株を「ストロング・バイ」として推奨しており、そのため、多くの金融機関がエンロンの債券を購入していました。

しかしこうした大規模な不正行為はエンロン単独によるものではありませんでした。その監査を担当していた、世界5大会計事務所であったアーサー・アンダーセンが、エンロンの粉飾会計に手を貸していたのです。
世界を代表する大会社の不正が発覚したことで、アメリカの株式市場における信頼は大きく低下しました。これらの事件を機に、アメリカは財務報告の信頼性を取り戻すべく、サーベンス・オクスレー法(SOX法)を制定させます。

エンロン事件が日本にもたらした影響――元本割れしたMMF

エンロン破綻の衝撃は日本にも及びます。
投資信託会社各社がエンロンの債券を購入したのは、2001年春頃のようです。このころ、ヒューストンにあるエンロン本社から財務部長クラスの社員が、自社債券の売りこみに日本までやってきて、投資信託会社を含む機関投資家を営業して回っています(業界では、これを「ロードショー」と呼んでいます)。当時の社長スキリング氏は、会社運営よりもむしろプレゼンテーションの能力に秀でていたようで、ロードショーに出席した日本のファンド・マネージャーやアナリストたちは、皆大きな感銘を受け、その結果、多くの運用会社が同社の社債を購入しました。

ところが、2001年11月末、5本のMMFを含む、20本以上の債券型投資信託の基準価額が10,000円を割りました。直接の原因は、エンロンが粉飾決算をしているのではないかという疑念です。そして実際、エンロンは12月のはじめに会社更生法適用を申請し、事実上の倒産となります。
これにより当面の間、債権者は利息や返済を要求できなくなってしまいました。また、ほとんどの場合、借金や社債の利息や返済は約束どおりには行われなくなるので、債券の価値は当然下がります。このとき10,000円割れを起こした債券型投資信託は、いずれもエンロンの債券を保有しており、その債券の価格が下落したために基準価額も下落したのです。

エンロン事件が投資信託業界に与えた影響は大きく、「MMFは元本割れしない」という評判を大きく傷つけることになりました。そこで、証券業界ではこれを教訓に、二度と元本割れを起こさないように運用ルールを改善しました。そして、実際にこれ以降MMFの元本割れは起きていません。
しかし運用が改善されたとはいえ、MMFが再び元本割れする可能性が全くなくなったわけではありません。それでも2001年の元本割れ以後、失墜してしまった評判を回復させるべく、MMFは着実に実績を積み重ねてきています。